mei_megumi’s blog

私の世界観、スローライフの薦め

更新69回目。その時がきた時、人々はこう簡単に言います。「尊い命を失くした」と。

それは、命の重さを量って言っているんでしょうか…

命…。

それは「永遠」ではないこと。

必ず全てものが終わりを告げます。

残るのは「無」

人々はそれを「恐怖」と思っています。

 

命を定規で測ることですか?

命を重量計で量ることですか?

 

いいえ全く違います。

命は『愛』で包み込むものです。

 

私は静岡からここ福島に来て、寒い冬の夜に愛しいナナ(ニャンコ)の最期を

見届けました。

今回は、解説抜きで小説のその一部を載せます。

このブログでは縦書きができないので、横書きになりますことをご了承ください。

 

小説「メイとコーヒーとニャンコたち」

第5話  発見した三毛猫は、おてんば娘のナナだった

 

 今の私にとって、メイさんの存在は心の中で大きな存在となっていた。
何というのか、私の生きがえの支えと言ってもいいかもしれない。
私も彼女と同じように離婚組の一人である。
 かと言って、メイさんにアタックするほどの勇気は今はない。
若い頃は男の不甲斐性なのか、性急すぎる求愛が何度かあったが、年齢を重ねるごとにそういった焦燥感などはなくなる。
 心の余裕なのか、それとも逆に体力が衰えてきたのか。確かに後者は事実である。私が今求めているのは、彼女に対する精神そのものでしかない。
 確かにその時のムードや、お互いが信頼し合って、無言のうちに一つに重なる時も
訪れるかもしれない。
 でもそれは、長い時の流れの中のひとこまに過ぎない。
時というものにこの身を任せ、いつも自然体でありたいと思っている。

 

(中略)

 

「このナナちゃんはね。ほら見て。背中に茶色くて丸い大きな班点があるでしょ。
わたしそれが気に入っちゃって…。三毛猫だけど、暗くても彼女よく目立つのよ。
<ナナ>って声を掛けると、<ミャア>っていつも返事してくれるの。でも<ナナ>って言っても声を出さずに、口だけパクパクとホントにその音が聞こえるの。そしてその口開けて、十センチの短いシッポも同時に振って、返事してくれるのが可愛いわね。
そしてこの子が一年ぐらい経ったときかな? 
ネコじゃらしのねずみのおもちゃを私ほいっと投げると、一目散にまっしぐらに飛んでいき、口に咥えて《捕まえてきたよ》って感じで、堂々と得意げに歩いて私の前に ポトンとそのねずみを落とすの。
私それがとても気に入っちゃって<ナナ、ねずみちゃんだよ>って言いながらそれを放り投げるの。何度もその度にナナ追っかけてったわ。そしてまた咥えて戻って来るんだから、ナナのちっちゃい姿が可愛くて可愛くて、たまらなかったわ。 プリンも反応して体を低くして構えるんだけど、ナナの迫力に負けていたよ。
周りがよく見えないキャンディもキョロキョロしながら何事?…なのって感じたったかな。多分も耳で反応してたのかな。ネコって獲物見つけると、頬の辺りが膨らんで、目つきも変わるのね。」
「そりゃあ、まるで犬だな。ナナの前世はワンちゃんだったりしてね。」
「よしてよ。ナナは列記としたネコちゃんよ。うふふ…。」
とまあ、こんな感じて話しが弾んでいた。
 するといつものように彼女は、遠くの空を見つめていた。

 

(中略)

 

「私ね、小学生の頃、学校の先生や父からもこう言われてきたの。
 昭和三十三年のとき、伊豆の修善寺から沼津の海岸に、人や牛などの家畜や、家も流されてしまった《狩野川台風》で大洪水が起きたのね。
 その時、真っ先に助けに駆けつけてくれた人たちが福島県の方々だったんですって。
先生は言いました。<福島でなにか大きな災害があったら、キミたちが助けに行って、そのご恩返しをしなさい>とね。
 私、その言葉が忘れられなくて…。それで決意して、今こうして福島にいることになったの。」
と彼女は言いながら、また外の景色を眺めていた。

 

「ナナね。そこで死んじゃった…。
仮設住宅にはたくさんのネコ達がいて、ナナはね、結構ほかのオス猫にもてたんだけど、もう十歳のおばあちゃんネコになってたわね。
日々、だんだんと衰弱していくのが私、わかっていたわ。
 ご飯も高齢者用のものに、もうとっくに切り替えていたんだけど、食欲もなくなって、歯がボロボロで、やっぱり歳とったんだなぁって…。
 そしてね、冬のある日のこと、私今夜辺りこの子駄目かなぁと思って、私のお布団の中にそっと入れて腕枕してあげたの。
 <ナナ、大丈夫?元気だしてね>と言ったら、もうしっぽも振ることなく、声も出すことなく、痛い口を無理に開いてパクパクと一回返事したわ。
《ああ、だめ!死んじゃ嫌よ…ナナ》
私は優しく彼女の鼻の先からおでこの方へと人差し指一本でずぅっと撫で続けたの。
今夜は寝ないつもりで朝まで看病したかったのに、私、寝入ってしまったの。
夜中二時、パッと起きて私の右腕を枕にしていたナナを見たの。
口を半ば開いていて、目はつぶってた。まだ暖かで体も柔らかかったわ。
ナナの前足を上にあげて手を離したら、ナナの前足がパタっと下に落ちたわ。
私、それを何回も何回も繰り返したの。
<ナナ、もうすぐ朝だよ。一緒に起きようね。ほら、暖房つけたよ。ナナ寒がりやだから。ねえ、いつものしっぽ振って。あんたのしっぽの振り方ね、メイ大好きだから…」

 

ナナというネコはこうしてメイさんの腕の中で息を引き取った。
それは雪の降っている寒い夜中であった。
 暖かい伊豆で生まれ、メイさんと他のネコたちからもいっぱい愛情をもらっていたナナは、寒い土地へ来たけど、きっと幸せだったに違いない…。

 

「 ナナね、なんか笑ってる表情だった。ニャンコは笑い顔ないのにね。
支援物資でいただいた品物の入っていたピンクの化粧箱にナナの亡骸をピンクの布地に包んで、そっと寝かせた。そして箱の蓋には、元気だった頃のナナの写真と、
《やすらかに、そしてプリンたちと一緒にねずみちゃんをまた追っかけてね》
というメッセージも貼った。
 でもお墓が作れないの…。知らない土地だから勝手に山に入ることは許されないわ。
一週間、仮設住宅の中で一緒にいたの。冬の寒い日が続いていたのでしばらくは大丈夫かなと思いながらも、どうしよかと悩み続けていたわ。
そしたらね、お隣に住む富子さんという人がね、
<おらんとこの、山に埋めていいで>とおっしゃってくれてね。
その時はどんなに嬉しかったか…。そして仕事が休みの土曜日、そこへ行ったのね。 富子さんの家の裏山でね、そのときは大粒の雪が深々と降っていたわ。
大きな杉の下に穴を掘り始めたけど、凍っているし、木の根はその邪魔をしている。
つるはしも使ったが、掘り進めることができず、
《ナナ、ごめんね。寒いでしょう。もう少し待っててね。土の中あったかいからね。だから我慢してね》
涙が溢れて溢れて…、手が凍えて… 、そして体中が雪で真っ白になって…。
<どれ、メイちゃん、おれも手伝ってやっぺ>って富子さんがスコップを持って来てくださったの。
《あぁ!ナナちゃん、貴女が富子さんを連れてきたの?ありがと、ありがとね、ナナ。私、手が悴んで穴掘れなかったの…》って心からナナにお礼を言った。
 そして土を埋め戻して小さな山を作り、杉の枯れ枝を何本もその上に被せたわ。
お線香を立て、富子さんと一緒に手を合わせたの。
お香の香りとその煙は雪の中に溶けるように、白い世界に消えていったわ。
 
 すっかり凍えてしまった私には、富子さんの部屋のストーブとコタツはとても暖かった…。そしてお煎餅と日本茶をいただいたの。
その湯気の向こうに、背中に茶色く丸い大きな班点のナナが、パクパクと口を開いてミャアと鳴く姿が見えたような気がしたの。
それは多分、天国へ旅立つナナの最後の挨拶だったのかもしれないわ…。」

 私はその話しを聞いて、黙ってメイさんのコーヒーカップに冷めてしまったモカを注いだ。
 十年間、寄り添った彼女たちの暮らしはどんなに明るく楽しかったか、そして ナナというニャンコは五回も引越しするするという経験も重ねてきた。
 そしてどうかまた、メイさんのところに生まれ変わって欲しいと、私は願っていた。

                              第3話  おわり

 

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この小説の一部で、皆様方それぞれに命の尊さや重さ、そして生きるということの

深さを感じていただけましたら本当に嬉しいです。

だからこそ『ひたすらに今を生きる』こと、そしてやってくる経験を受け入れること

全体のままでいましょう。

そうすれば気持ちがとても楽になっていきます。

 

それでは次の更新まで ごきげんよう